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大分地方裁判所 昭和45年(ワ)457号 判決

主文

原告の被告安部虎之助、同安部清信に対する訴を却下し、被告安部安雄に対する訴は金七二万三、一二七円の限度においてこれを却下する。

被告安部安雄は原告に対し金四九七万九、〇八三円およびこれに対する昭和四三年九月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告安部安雄に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告と被告虎之助、同清信との間では原告の負担とし、原告と被告安雄との間ではこれを二分し、その一を原告の、その余は被告安雄の、各負担とする。

この判決は、原告の勝訴部分にかぎり仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯として原告に対し金九〇〇万円およびこれに対する昭和四三年九月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  訴に対する被告らの本案前の答弁

1  原告の訴を却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は左記交通事故により受傷した。

イ 日時 昭和四三年九月三日午後七時五〇分頃

ロ 場所 大分市大字屋山八五四の一先路上

ハ 態様 原付二種カブ号単車に乗り東進中の原告に、対向西進してきた被告安雄運転の軽四輪貨物自動車(六大分は八八―〇二号)が正面衝突

ニ 負傷 右衝突により原告は転倒し、右大腿骨複雑骨折、左頸骨顆部骨折の傷害を受けた。

2  治療経過

原告は事故当日の昭和四三年九月三日から同四五年六月一三日まで六四九日間、大分市の古賀病院に入院し、同年七月一〇日まで通院治療を受けた。

3  帰責事由

被告安雄は、前記加害車両を保有し、自己のために運行の用に供するものである。

被告虎之助、同清信は、昭和四三年九月一三日、被告安雄の原告に対する本件事故の損害賠償債務につき、連帯保証をする旨の意思表示をした。

4  原告は本件交通事故により左記損害を被つた。

イ 治療費 金二六七万〇、四〇四円

右は前記古賀病院における昭和四三年九月三日から同四五年六月一三日までの入院治療費および同年同月一四日から同年七月一〇日までの治療費の合計額である。

ロ 入院雑費 金一九万四、七〇〇円

右は一日につき金三〇〇円の割合で計算した入院日数六四九日分の合計額である。

ハ 付添費 金一二万円

右は昭和四三年九月三日から同年一二月三一日までの家族付添費であつて、一日一、〇〇〇円の割合で計算した一二〇日分の合計額である。

ニ 逸失利益 金六二七万一、三七四円

原告は左官で、本件事故当時一日あたり金二、一〇〇円の収入をえて、一ケ月平均二五日稼働していた。しかして左官の日当は昭和四五年から同四七年までは金二、五〇〇円に、昭和四八年以降は金三、〇〇〇円に増額されることが見込まれているのであるが、原告は本件交通事故による右膝関節拘縮伸展屈曲障害等の後遺症(自賠等級一一級)のため左官廃業を余儀なくされた結果、昭和四五年一〇月四日から新日鉄の下請企業に就職し、月額金三万五、〇〇〇円(日給一四〇〇円)の収入をえているにすぎない。

右により、各年末に一括支払いを受けるものとして、逸失利益の本件事故当時における現価(単位円)を求めると、つぎのとおりである。

(1) 昭和43.9.3~44.12.31までの分

2,100×25×16(月)=840,000

840,000×0.90909=763,635

(2) 昭和45.1.1~45.12.31までの分

2,500×25×9(月)=562,500

(2,500×25-35,000)×3(月)=82,500

(562,500+82,500)×0.869565=560,869

(3) 昭和46.1.1~47.12.31までの分

(2,500×25-35,000)×12(月)×(0.83333-0.80000)=538,998

(4) 昭和48.1.1~67.12.31までの分

(3,000×25-35,000×12(月)×(13.61606-4.36437)=4,407,872

(5) 以上合計 6,271,374

ホ 慰藉料 金一五〇万円

入院日数六四九日、通院期間二七日の治療期間および右足短縮、右足膝関節機能障害の後遺症にもとづく原告の精神的損害は、慰藉料金一五〇万円に相当する。

ヘ 弁護士費用 金五〇万円

5  一部弁済

原告は、被告らから治療費として金一八万九、三八五円、休業補償費として金六万二、五〇〇円、自賠責保険から金四五万円計七〇万一、八八五円の弁済を受けた。

6  よつて原告は、被告安雄に対しては加害車両の保有者として、その余の被告らに対しては損害賠償義務の連帯保証人として、前記損害総額から弁済金を差引いた金一〇五五万四、五九三円の内金九〇〇万円およびこれに対する本件事故発生日たる昭和四三年九月三日から支払いずみまで年五分の割合による法定遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

第1項 イ、ロ、ハ、認め二、争う

第2項 入院日数については因果関係を争う。原告の症状からすれば、一年程度の入院で十分である。

第3項 被告安雄が本件加害車両の保有者であることは認める。

被告虎之助、同清信が被告安雄の原告に対する損害賠償債務につき、治療費全額、休業補償費六ケ月分金三七万五、〇〇〇円、慰藉料金一八万円、看護料兼留守居料金一八万円、雑費金二万五、〇〇〇円の限度で連帯保証した事実は認め、その余の連帯保証の事実は否認する。

第4項 範囲、金額、計算方法はすべて争う。入院日数を根拠にする逸失利益、慰藉料等の計算はすべて前記一年程度の期間を基準にすべきであり、また逸失利益の計算において、物価上昇は考慮すべきではなく、かつ中間利息の控除方法にはライプニツツ方式が採用せられるべきである。

三  抗弁

1  (本案前)原告と被告三名は、昭和四三年九月一三日、本件事故については示談で解決し、訴を提起しない旨の不起訴の合意をした。したがつて本件訴は、権利保護の利益を欠き、却下を免れない。

2  昭和四三年九月一三日、原告と被告三名の間で左記内容の和解契約が成立した。

イ 被告安雄は原告に対し、つぎの金員を支払うこと

(1) 原告の治療費全額、ただし医師に直接支払う。

(2) 一ケ月金六万二、五〇〇円の割合による休業補償費六ケ月分、合計金三七万五、〇〇〇円

(3) 慰藉料 金一八万円

(4) 一ケ月二、〇〇〇円の割合による看護および留守居料九〇日分、計金一八万円。

(5) 入院雑費 金二万五、〇〇〇円

ロ 被告安雄は被害車両のカブ号を引取り、原告に同価額程度の単車を提供する。

ハ 自賠責保険金は被告安雄に帰属する。

ニ 原告が六ケ月を経過するもなお就業できないときは、治療費につきさらに示談をする。

ホ 被告虎之助、同清信は、被告安雄の右債務につき連帯保証をする。

被告らは、右和解で支払いを約した金員を全額支払つた外、自動二輪車一台を原告に提供した。よつて被告らには右和解契約を超えて原告の損害賠償請求に応じる義務はない。

3  仮りに前項の和解契約が暫定的なものであるとしても、被告らは自賠責保険金および右和解契約の分を含め、つぎのとおり弁済したから、損害賠償額から控除されるべきである。

自賠責保険金 450,000

古賀病院への支払い 189,385

43年9月16日休業補償 62,500

慰藉料 180,000

看護留守居料 180,000

療養雑費 25,000 25,000

44年10月 休業補償 62,500

11月同上 62,500

12月同上 62,500

1月31日同上 62,500

2月28日同上 62,500

4月10日同上 62,500}375,000

6月17日同上 20,000

8月13日同上 20,000}+26,500

=1,2,500

計 1,501,885

4  (被告安雄)昭和四四年六月頃、原告と被告安雄は、原告の治療費はまず自賠責保険金をもつてこれにあて、不足分は原告の日雇労働者健康保険によることとし被告安雄には請求しない旨の合意が成立したから、同被告は原告に治療費を支払う義務はない。

四  抗弁に対する認否

第2項 被告主張の和解契約が成立したことは認めるが右は暫定的契約であつて、原告の損害賠償請求権を喪失せしめるものではない。

第3項 自賠責保険金四五万円、治療費一八万九、三八五円、休業補償費六万二、五〇〇円を受領したことは認める。

第4項 否認。

第三証拠〔略〕

理由

一  本案前の抗弁について

成立に争いのない甲第六号証の示談書中には、昭和四三年九月一三日、原告と被告三名が前掲抗弁第2項と同一内容の約束の外、文書冒頭に「右合意により本件事故の補償問題は一切円満に解決した、ついては今後、本件に関しいかなる事情が生じても決して異議の申立、訴訟等一切しないことを確認する」旨の、文書末尾に「医師の診断により六ケ月を経過するも尚原告が就業できない場合および原告に後遺症が発生した場合は原告は更に誠意をもつて示談を成立させる」旨の各文言が記載されていることが認められ、原告本人尋問(第二回)の結果によれば、右文言が双方合意の下に記載されたことは明らかである。そしていささか例文めく嫌いはあるけれども、右冒頭の合意内容は一種の不起訴合意に該当すると考えてよいし、また末尾の前記文言を参酌すると、右不起訴合意は一応後遺症の場合をも含む本件事故による全損害に及ぶものと解されなくもないのである。

しかしながら、右作成日付によると、右甲第六号証の示談書が作成されたのは本件事故から僅か一〇日後であり、(作成の目的は被告安雄の刑事事件における情状証拠としてであろう)、全治の見込、治療の期間、後遺症の有無、治療費の総額等の一切さだかでないかかる時点において、本件事故による損害賠償請求全部につき不起訴の合意がなされたと解することは、前記末尾の文言を考慮に入れたとしても当事者特に原告の意思にそうとは考えられないし、信義則にも反するのであつて結局のところ右不起訴合意は、前記示談内容の不履行にその効力を限定すべきものと解釈するのが最も合理的であると思料される。そうすると、本件事故による損害賠償請求全部につき不起訴契約があつたとする被告訴訟代理人の主張は結論的に失当であるが、後に述べるように本訴のうち右和解契約に含まれる部分は却下を免れないというべきである。

二  請求原因につき争いのない事実

昭和四三年九月三日午後七時五〇分頃、大分市大字屋山八五四の一先路上において、原付二種カブ号で進行していた原告に、折から対向してきた被告安雄運転の軽四輪貨物自動車が正面衝突する交通事故が発生したこと、被告安雄が右加害車両の保有者であること、被告虎之助、同清信が被告安雄の原告に対する損害賠償債務につき治療費全治休業補償費六ケ月分金三七万五、〇〇〇円、慰藉料金一八万円、看護料兼留守居料金一八万円、雑費金二万五、〇〇〇円の限度で連帯保証をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

三  治療経過について

成立に争いのない甲第二、第三号証、乙第二、第三号証に原告本人尋問の結果を総合すると、原告は右事故の結果、右大腿骨複雑骨折、左脛骨複雑骨折、左脛骨顆部骨折の傷害を受け、事故当日の昭和四三年九月三日から同四五年六月一三日まで六四九日間大分市鶴崎の古賀病院に入院して観血的骨折合術等の手術、治療を施されたが全治するに至らず、右膝関節拘縮症の後遺症を残したまま同病院を退院し、その後昭和四五年七月一〇日、同病院に一回通院したこと、自賠責保険は原告の右後遺症を自賠等級一一級と査定したことがそれぞれ認められ反証はない。

四  帰責事由

前記甲第六号証によるも被告虎之助、同清信が前記のとおり自認する連帯保証の限度を超えて被告安雄の本件事故にもとづく損害賠償義務の保証をしたことを認めることはできないし、外にこれを認めるにたる証拠はない。

五  原告の損害について

イ  治療費

成立に争いのない乙第二、第四号証に証人荻本仂の証言を総合すると、原告の前記古賀病院における治療費総額は、二六〇万七、二七五円であることが認められ、格段の反証はない。

そして右荻本証人の証言によると、右の治療費のうちの大部分は未払いとなつているが、同病院では原告が即金で支払うのであれば、これを二〇〇万円に減額する意向であることが認められる。しかして原告の前記症状と対比してみると、右病院での入院治療期間六四九日はいささか長すぎるようにも思われ、本件事故と右治療費の間の因果関係に疑問が残らないではないが、余病の発生等特段の事情の認められない本件においては、病院側の減額の意向はあるとしても、一応全額を本件事故にもとづく損害と認める外はないのである。

ロ  入院雑費

入院期間が長期にわたつていることを勘案し、一日二〇〇円として、計金一二万九、八〇〇円の限度でこれを認容し、その余は棄却すべきである。

ハ  付添費

原告本人尋問(第二回)の結果に原告の前記症状をあわせて考えると、原告の入院期間中最低四ケ月程度の付添は必要であつたと考えられる。そして右原告本人尋問(第二回)の結果によれば、現実に約五ケ月間原告の妻が付添つたことが認められるので、付添費として、一日一、〇〇〇円の割合で計算した一二〇日間の合計額金一二万円を本件事故による損害と認めるを相当とする。

ニ  逸失利益

成立に争いのない甲第二号証、原告本人尋問(第二回)の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証、第五号証の一、二によれば、原告は昭和九年六月八日生れで左官を業とし、本件事故当時一日あたり二、一〇〇円ないし、二、八〇〇円の日当をえて、月平均二五日間働いていたが、本件事故の結果、昭和四五年九月まで全く稼働することができず、さらに前記後遺症として右膝関節が一三〇度ないし一八〇度の範囲でしか曲らなくなつたため、左官廃業を余儀なくされ昭和四五年一〇月から同四七年三月まで光工業なる会社に倉庫番として就職、日給一四〇〇円で月平均二五日間働き、同年四月東亜外業なる会社に同じく倉庫番として雇傭され日給二、二〇〇円を受けて一ケ月平均二五日間働いていることが認められ、反証はない。ところで逸失利益の算定にあたつては、原告主張のように原告の事故後における実収入と左官業による得べかりし利益との差額を求める方法も一理はあるが今後の就職、転職の態様とこれによる収益の多寡は予想し難いものであるから、むしろ退院時たる昭和四五年六月に前記後遺症の症状固定があつたものとみなしそれ以後は従前の左官収入に対する自賠等級一一級の労働喪失割合たる二〇パーセントをもつて逸失利益とする方がむしろ事理に即した方法であると考えられる。そしてその算定にあたつては、左官収入の基準額を前掲事故当時における賃金額の最低額たる日額二、一〇〇円に求め、近年建設労務者の賃金が毎年大幅に増額されている実情を考慮に入れて昭和四九年までは毎年二〇〇円づつ上昇するものとし、昭和四九年から原告が満六〇才に達する昭和七〇年までは右と同一賃金で働くものとして事故の年度である昭和四三年の一月一日現在における右賃金額の現価を求めることが最も便利かつ合理的であると判断されるのである、そこで右賃金額を毎年末一括支払いを受けることを前提にライプニツツ複利式計算法により中間利息を控除して右昭和四三年一月一日現在における原告の逸失利益の現価を計算すると、別紙計算書のとおり金三八四万六、五二〇円となるのである。

ホ  前記入院日数、後遺症の程度ならびに本件事故の態様に鑑みると、原告の本件事故にもとづく精神的損害は金一五〇万円に相当するものと認められる。

ヘ  弁護士費用

本件事故の態様と事案の性質に鑑みると、原告の弁護士費用として金五〇万円が本件事故により生じた損害であると認めることができる。

六  抗弁第二項の和解契約について

昭和四三年九月一三日原告と被告三名の間において抗弁第2項記載の和解契約(第一項に記載したものに同じ)が成立したことは当事者間に争いがない。

しかしながら、右和解契約は前認定の作成時期、作成目的等を考えあわせると、これをもつて本件事故の処理につき最終的合意をしたものとはとうてい考えることができないから、原告の損害賠償請求権が右契約の所定条項に限定されるとする被告の主張は失当といわざるをえない。右は原告の主張するようにあくまで暫定的効力を有するにすぎないと考えるべきであろう。

七  抗弁第三項の一部弁済について

原告が自賠責保険金四五万円、治療費のうち金一八万九、三八五円、休業補償費のうち金六万二、五〇〇円を受領したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第九号証ないし第一二号証に証人安部ナミ子(第一、二回)の証言および原告本人(第二回)、被告安雄本人尋問の各結果を総合すると、被告主張の弁済(ただし昭和四四年六月一七日の支払額は金二万円、総額一五〇万一、三八五円で、医療費を除き前記和解契約ものは全部履行ずみ)があつたことが認められ、右認定を動かすにたる証拠はない。

八  抗弁第四項の健康保険使用の合意について証人安部ナミ子(第一回)の証言によるも、原、被告間に被告安雄主張のような合意が明確になされたと断定することはできないし、仮りにこのような合意が成立したとしても昨今医師が健康保険の使用を嫌う風潮が顕著であつて実際上、患者である原告が、右合意の履行として、どの程度健康保険の使用を医師に要求できるかも疑問であるから、結局のところ右は履行責任を伴なわない任意の約束と解すべく、これをもつて独立の抗弁とすることはできないものと判断するのが相当である。

九  まとめ

(一)  原告の被告虎之助、同清信に対する訴は前掲甲第六号証による示談をその唯一の帰責事由とするものであるところ、右示談内容がいわゆる不起訴の合意を含んでいることは前記認定のとおりである。しかして不起訴合意が直ちに権利保護の利益を喪失せしめるか否かにつき争いがないわけではないけれども、民事訴訟制度が私権保護を目的としたものであり、請求の放棄、認諾、和解、訴の取下等広い範囲にわたつて訴訟の目的物を当事者の自由な処分に委ねる処分権主義が採用されていることに鑑みると、当事者間の合意でこの制度による救済を敢て放棄する者に対し、権利保護の利益がないものとして訴提起の途を閉ざすことも、制度的に背理ではないと考えるのが相当である。むしろ公権は放棄できないとの概念的な理由でかかる訴を取下げ、不起訴合意により生じた損害賠償を別訴で争わせることは紛争を複雑化するだけであつて、かえつて民事訴訟制度そのものの目的に合致しないものとなるであろう。したがつて右和解契約を根拠とする原告の右被告両名に対する訴は、権利保護の利益を欠くものとして却下を免れないというべきである。

つぎに被告安雄に対する訴について検討するに、先ず甲第六号証の示談書中の記載は抗弁2のとおりであり、この記載事項につき不起訴合意があることは右に述べたとおりである。したがつてこの中に記載された事項について原告は他の被告両名に対すると同様権利保護の利益を有しないと解すべきである。ところで右示談内容のうち履行されていないのは前認定のように医療費であるが、右示談書の前記文言によると医療費全額につき不起訴合意の効力が及ぶようにも解されなくはない。しかしながら甲第六号証の全内容と証人安部ナミ子(第一、二回)の証言および被告安雄本人尋問の結果によれば、右示談書作成当時医師の当初の診断等により、原告の傷害は一応六ケ月で治癒することが示談における当然の前提とされていたことが窺われこの六ケ月間を限度とする治療費負担が当事者の意見であつたものと認められるので、不起訴合意も右の範囲に限定して解釈するを相当とする。しかして治療費総額は前記のように二六〇万七、二七五円であるが、右六ケ月分の治療費は分明でないので便宜上六ケ月一八〇日間と入院日数六四九日との比によりこれを算出すると

2,607,275×180/649=723,127

すなわち七二万三、一二七円となる。よつて原告の被告安雄に対する治療費の請求中右七二万三、一二七円については訴を却下すべきである。

以上のとおりとすれば、被告安雄は、加害車両の保有者として、原告に対し治療費中、右不起訴合意のあつたものを除く金一八八万四、一四八円、入院雑費一二万九、八〇〇円、付添費一二万円、逸失利益三八四万六、五二〇円、弁護士費用五〇万円計六四八万〇、四六八円から一部弁済額一五〇万一、三八五円を差引いた四九七万九、〇八三円の支払義務のあることが明からとなつた。

一〇  結論

よつて原告の被告三名に対する本件訴は、被告安雄については金七二万三、一二七円の限度において、被告虎之助、同清信については訴全部について、それぞれ却下することとし、原告の被告安雄に対するその余の本訴請求は金四九七万九、〇八三円とこれに対する本件事故発生の日たる昭和四三年九月三日から支払いずみまで年五分の割合による法定損害金の支払いを求める限度でこれを認容し、その余を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平井和通)

計算書 単位円、円未満切捨

昭和43年 2,100×25×4×0.9523=199,983

〃44年 2,300×25×12×0.907=632,730

〃45年(6月まで)2,500×25×6×0.8638=647,850

昭和45年(7月から12月まで)2,500×25×6×20/100×0.8638=64,785

〃46年 2,700×25×12×20/100×0.88227=133,277

〃47年 2,900×25×12×20/100×0.7835=136,329

〃48年 3,100×25×12×20/100×0.7462=138,793

〃49年 3,300×25×12×20/100×0.7106=140,698

〃50年 198,000×0.6768=134,006

〃51年 198,000×0.6446=127,630

〃52年 198,000×0.6139=121,552

〃53年 198,000×0.5846=115,750

〃54年 198,000×0.5568=110,246

〃55年 198,000×0.5305=105,039

〃56年 198,000×0.4810=95,238

〃57年 198,000×0.4581=90,703

〃58年 198,000×0.4362=86,367

〃59年 198,000×0.4155=82,269

〃60年 198,000×0.3957=78,348

〃61年 198,000×0.3768=74,606

〃62年 198,000×0.3587=71,062

〃63年 198,000×0.3418=67,676

〃64年 198,000×0.3255=64,449

〃65年 198,000×0.31=61,380

昭和66年 198,000×0.2953=58,469

〃67年 198,000×0.2812=55,677

〃68年 198,000×0.2678=53,024

〃69年 198,000×0.2550=50,490

〃70年 198,000×0.2429=48,094

計 3,846,520

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